熟成という愛——ヴィレッジセラーズのオープンセラーで聞いた、ワインと時間の話

年に一度、この日が来るのをいつも楽しみにしています。

富山県氷見市。新高岡駅からヴィレッジセラーズの本社へと向かう送迎バスの中、「今年はどんなワインと出会えるだろう」という気持ちが、胸の中でじんわりと膨らんでいきます。


目次

年に一度のオープンセラーへ

ヴィレッジセラーズは、ニュージーランドとオーストラリアのワインを主に扱う日本でも有数のインポーターです。Cave de Uが最も親交を深めている輸入元でもあります。

年に一度、ヴィレッジセラーズ本社で開催される「オープンセラー」は、彼らが心を込めて保管してきたバックヴィンテージのお披露目の日であり、それらを実際に購入することができる、業界でも非常に貴重な機会です。

今年は1年ぶりに氷見を訪れました。会場には、ワインに人生を捧げてきたプロフェッショナルの方々が集まっていました。ソムリエ、ワインショップのオーナー、飲食店の方々——それぞれがワインという仕事に誇りと情熱を持って向き合っている方々です。

そういう方々と同じ時間を共有できることが、どれほど幸せなことか。グラスを傾けながら、改めてそれを強く感じた一日でした。


今回のラインナップ

今回のオープンセラーでは、ニュージーランドワインからは「フェルトン・ロード」と「ペガサスベイ」の2ワイナリーのみが出展されていました。それ以外のラインナップは、ほとんどがオーストラリアのワイナリーによるものでした。

しかし、どれもが本当に素晴らしいエイジングを感じさせる、ポテンシャルの高いワインばかりでした。若いうちは力強かった果実味が、時間の経過によってなめらかになり、複雑なブーケへと変化している——その変容を実際にグラスで感じると、熟成という行為がいかに豊かな営みであるかが改めてわかります。

その中でも特に素晴らしいと感じたワインをいくつか選び、購入させていただきました。Cave de Uを通じて皆さんにお届けできると思います。詳しくは、バックヴィンテージのカテゴリーをご覧ください。

 


コーエンさんの創業ストーリー

この日、私がずっと聞きたかった質問をすることができました。

創業者のリチャード・コーエンさん、そして取締役で奥様の中村芳子さんとお話しする時間をいただき、「ヴィレッジセラーズをどのようにして立ち上げたのか、そしてバックヴィンテージを保管するということにどのような経緯で至ったのか」を、直接伺うことができたのです。

コーエンさんは当初、芳子さんのご実家の家業のお手伝いをするために日本にいらっしゃいました。もともとワイン事業とは全く無縁だったそうです。しかしそんな中で、故郷のオーストラリアのワインの素晴らしさを改めて感じ、「この美味しいワインを日本の仲間たちに広めたい」という思いでヴィレッジセラーズをスタートされたとのこと。

その話を聞きながら、私は何度もうなずいていました。それは今の私がCave de Uでニュージーランドワインを広めたいと思った気持ちと、あまりにも重なっていたからです。「知ってほしい、飲んでほしい、この素晴らしさを誰かと分かち合いたい」——その出発点が、コーエンさんと私の中で、不思議なほど同じでした。

最初にコーエンさんが「この美味しいワインを届けたい」と思った一つにあるのが、ルーウィン・エステートというオーストラリアの蔵元のワインだったそうです。

▲ルーウィン・エステートのシャルドネ2011年ヴィンテージ


熟成させるという哲学

コーエンさんの話で最も印象に残ったのは、ニューワールドワインにおけるエイジング文化の黎明期についてのエピソードでした。

当時、ニュージーランドはもちろん、オーストラリアワインでも、「ヴィンテージワインとして熟成させてリリースする」という考え方はほとんど存在しなかったそうです。ワインは造られたらすぐに飲む——それが当たり前の時代でした。

そんな状況の中、ヴィレッジセラーズがバックヴィンテージへの取り組みを決意したきっかけを、直接お聞きすることができました。あるとき、日本でも名の知れたソムリエの方から「オーストラリア・ワインは熟成しない」と言われたのだそうです。その言葉に、コーエンさんと芳子さんは黙っていられませんでした。「熟成することを証明するために、ワインを取り置きして再リリースするプログラムを始めることにした」——それが、ヴィレッジセラーズのバックヴィンテージ事業の、本当の出発点だったのです。

何よりコーエンさんは、ルーウィン・エステートのワインに並外れたポテンシャルを感じており、「これは熟成させれば、必ずフランスの名醸ワインに匹敵するような素晴らしい一本になる」と確信していたのです。

そしてその確信に従い、ルーウィン・エステートのワインを丁寧に熟成させ、バックヴィンテージとしてリリースし始めました。驚くべきことに、それはルーウィン・エステートの生産者たち自身が考えもつかなかったことでした。

やがてヴィレッジセラーズが熟成させたルーウィン・エステートのワインを、生産者たち自身が初めて口にする機会が訪れます。そのとき彼らは、自分たちのワインが持っていたポテンシャルに初めて気づいたと言います。その体験を経て、ルーウィン・エステートは自らもヴィンテージを大切にしてリリースするようになっていきました。

「インポーターが生産者の可能性に先に気づいた」——そんな、ワインの歴史の中でも珍しい逆転の物語です。

―――

もっとも、生産者側がなぜ自分たちでヴィンテージワインを保管・販売しなかったのかには、明確な理由がありました。オーストラリアでも古いワインは存在していましたが、それを商品として販売することは一般的ではなかったのです。最大の理由は経済的なものでした。その当時は、造ったワインを在庫として持ち続けると、その残量に対して毎年かなりの税金がかかる仕組みになっていたため、一定の資金力を持つワイナリーでなければ、熟成させてから販売するという選択が難しかったそうです。

それでも、長い歳月をかけてヴィレッジセラーズが先鞭をつけてきた結果、少しずつ状況は変わりつつあります。芳子さんによれば、最近ではルーウィン・エステートでもセラードアで古いヴィンテージを提供するようになってきているとのこと。コーエンさんたちが蒔いた種が、確かな形で芽吹いていることを感じます。

▲ヴィレッジセラーズの巨大な自社倉庫

 


フェルトン・ロードとの縁

コーエンさんの話を聞きながら、私はあるエピソードを思い出していました。

以前、セントラルオタゴのフェルトンロードを訪問した際、チーフワインメーカーのブレアと話す機会がありました。そのときブレアは、ヴィレッジセラーズについてこう語ってくれました。「彼らは本当に素晴らしい取り組みをしている」。ヴィレッジセラーズが多くのワインを丁寧にエイジングさせてセラーしているという取り組みに対して、深いリスペクトと評価を寄せているということでした。

今日コーエンさんからルーウィン・エステートとの経緯を聞いて、初めてすべての整合性が取れました。フェルトン・ロードもまた、ヴィレッジセラーズの存在と、彼らがニューワールドワインに果たしてきた役割を通じて、熟成への意識を高めてきたのだと——ブレアが語ってくれていたことの意味が、今日の話で初めて腑に落ちたのです。

ニュージーランドやオーストラリアにおけるエイジングワインの文化に、最も大きく貢献してきたのがコーエンさんと芳子さん、そしてヴィレッジセラーズの皆さんだということを、確信しました。


胸がいっぱいの一日

ワインをお仕事にしている方々には、それぞれにその道を選んだ理由があります。

今日集まっていた方々のワインに対する造詣の深さ、一本一本のワインに向き合う深いリスペクト——それを肌で感じながら過ごした時間は、本当に胸がいっぱいになるほどの幸せがありました。

同時に、自分自身のワインへの思いも改めて確かめられた気がしました。「このなかなか知られていない熟成ワインというものがどれほど素晴らしいか、多くの人に知ってほしい」——それは、私がCave de Uを通じて伝えていきたいことのひとつでもあります。

コーエンさんと芳子さん、そしてヴィレッジセラーズさんが、数十年かけてひとつひとつ積み上げてきた仕事の重さを思うと、ただただ頭が下がります。そしてそのバトンを、少しでも次につなぐことができたら——そんな気持ちを抱きながら、氷見を後にしました。

▲コーエンさんと芳子さん

 

 


Cave de Uで購入する

今回のオープンセラーで仕入れたヴィンテージワインを、Cave de Uを通じて皆さんにお届けできることを、心から嬉しく思っています。

本数は限られていますが、ヴィレッジセラーズさんが丁寧に保管してきたワインを、丁寧に皆さんの元へつなぐことができれば——そんな気持ちで、バックヴィンテージのカテゴリーに掲載しています。ぜひご覧ください。

バックヴィンテージについての詳しい解説や、Cave de Uがバックヴィンテージを販売する思いについては、以下の記事もあわせてお読みいただければ幸いです。

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