ペガサス・ベイのセミナーで知った「世界一のリースリング」——ワイパラ・ヴァレーの秘密

グラスに注がれたリースリングを一口飲んで、思わず天を仰ぎました。

「なんて美しいリースリングなんだろう」と。オレンジピールのような香りと、ほのかなスパイス。そして飲み終えた後も続く、長い余韻。美味しくて、しばらく言葉を失いました。

そして、「これはどうやって作られているんだろう」という疑問が、自然と頭に浮かびました。

ペガサス・ベイのセミナーに参加したのは、そんな偶然の出会いがきっかけでした。今回は、そのセミナーで聞いた話を皆さんにお届けします。リースリングへの見方が、きっと変わると思います。


目次

ノース・カンタベリーという「隠れた産地」

セミナーは、産地の説明から始まりました。

ニュージーランドの東海岸は、全体的に降水量が非常に少ない乾燥した土地です。その中でもノース・カンタベリーは、冷涼気候(クールクライメット)のなかで果実が凝縮するという、特別な環境を持っています。

「ノース・カンタベリー内のサブリージョンがワイパラ・ヴァレーです。実は、ノース・カンタベリーで作られるワインの95%がここで生産されています」——そう説明された瞬間、この産地の集中度の高さに驚きました。

ペガサス・ベイは、まさにこのワイパラ・ヴァレーに位置しています。

石が熱を蓄える畑

土壌の話が、特に印象的でした。

ワイパラ・ヴァレーの土壌は氷河期に形成された砂利質が主体です。地表にはゴロゴロとした大きな石が転がっており、これが重要な役割を果たします。昼間、石は太陽の熱をたっぷりと蓄える。夜になると、その熱をゆっくりと放射する。ブドウの周囲の温度を一定に保つ、天然の「床暖房」のような仕組みです。

さらに北東から吹く強い風が、ブドウの葉を揺らし、空気を循環させます。この風が病害を防ぎ、ブドウを健全に保つ役割も担っています。「冷涼でありながら、果実がしっかり熟す」というワイパラの特性は、こうした自然の仕組みが重なって生まれているのです。


「5月から7月に収穫する」という衝撃

「リースリングの収穫は、5月中旬から7月中旬にかけて行います」

その言葉を聞いたとき、思わず耳を疑いました。

通常、ニュージーランドのブドウ収穫は3月末〜4月上旬。それがペガサス・ベイは2〜3ヶ月も遅いのです。7月といえば、南半球では真冬です。

「ときには貴腐菌がつくほど、限界まで熟させてから収穫します」

貴腐菌とは、ブドウの表皮に繁殖するカビの一種。通常は避けるべき存在ですが、条件が揃ったときにだけ、ブドウの水分を蒸発させて糖度と風味を極限まで凝縮させます。その状態になるまで木にならせ続けるというのは、他のワイナリーではほとんど見られない、極めて特異なアプローチです。

ノース・カンタベリーのリースリングには「オレンジスパイス」のような独特のニュアンスがある、とセミナーで説明を受けました。ペガサス・ベイはその特性を最大限に活かすため、この遅摘みを選んでいるのです。


金キャップvs青キャップ——そして世界一への軌跡

セミナーでは、スクリューキャップの色についての話も出ました。

ベル・カント・リースリングは金色のキャップ、エステート・リースリングは青いキャップ。この見た目の違いは、製造スタイルの違いを表しています。

エステート・リースリングには「10年リリースプログラム」という考え方があります。ベル・カントほど極端ではないものの、しっかり熟成させてから収穫し、酸のピュアさと果実味のバランスを追求します。「糖が口の中に残らないよう丁寧に造る」というこだわり。そして発酵の過程で自然に発生するCO2もそのままボトリング——これがあの「きめ細かい、生き生きとした口当たり」の秘密です。

そして、ベル・カントをめぐる伝説的なエピソード。

「2011年のベル・カントが、ジャッジメント・オブ・ロンドンで最高点を取ったんです」

ジャッジメント・オブ・ロンドンとは、21人の専門審査員による権威あるブラインドテイスティングのコンペティションです。そこでペガサス・ベイのベル・カント 2011年が、世界中の名だたるワイン——1本4,000ドルもするようなプレミアムワインを含む——を上回り、最高点を獲得しました。

一夜にして、ペガサス・ベイは「世界一のリースリング」と呼ばれるようになりました。

「その知らせには、驚きました」と担当者は言いました。「でも、私たちは何も変えていません。ただ、自分たちが正しいと信じるやり方を続けてきただけです」。


「気分屋」のフラッグシップ——プリマドンナの秘密

ペガサス・ベイのピノ・ノワールは、樹齢25〜40年の老木を使い、クローンごとに仕込み方を変えて醸造します。18ヶ月の熟成の後、さらに2ヶ月をかけてじっくりブレンドを行います。

そして最大のこだわりが、タンニン(渋み)の抽出方法。「種からタンニンを引き出すと、味がきつくなります。だから私たちは、皮とヘタからだけ抽出するんです」——この一言が、あの「ソフトでシルキーな口当たり」の理由でした。

フラッグシップのプリマドンナについて、名前の由来の話にもなりました。

「プリマドンナ」とは、イタリア語で「気分屋の女優」という意味です。「このブドウは本当に繊細で、常に機嫌を取り、丁寧に世話をしなければなりません。だからこそ、最高品質のブドウが生まれる。最高の素材には、最良の樽を使います」。

なるほど、と思いました。「気分屋」という名前に、最高のワインへの敬意が込められているのです。


ワイパラのスタイルは、なぜブルゴーニュに近いのか

セミナーの最後に、他産地との違いを比較する話がありました。

  • セントラル・オタゴ:果実が全面に出る、ジューシーなスタイル
  • マールボロ:土壌の多様性から、個性豊かなワインが生まれる
  • カンタベリー(ワイパラ):セイボリー(旨味系)、アーシー(土っぽい)、スパイシーな個性が特徴

「ワイパラのピノ・ノワールは、よくブルゴーニュスタイルと言われます」——担当者がそう話したとき、ようやく合点がいきました。白胡椒のようなスパイス感、青みのあるアロマ、しっかりとした骨格と酸の重なり。果実の甘さで飲ませるのではなく、複雑さと構造で勝負するスタイル。それがワイパラであり、ペガサス・ベイなのです。

セミナーが終わり、もう一度ベル・カントをグラスに注ぎました。

「オレンジスパイス」の意味が、今度はわかる気がしました。ほのかに漂う柑橘の皮のような香り、スパイシーで奥行きのある余韻。そしてあの、いつまでも続く長い後味。冬まで木にならせ続けた、ブドウの時間の重さを感じるような味わいでした。


マーケティングマネージャーのエドワード・ドナルドソンさんと


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