グラスを傾けると、黒胡椒のスパイスと、奥にひそむスミレの花の香りがふわりと広がりました。
「オーストラリアのシラーズとは全然違う」——一緒に試飲していた方がそうつぶやいたとき、その通りだと思いました。同じブドウ品種なのに、なぜここまで違うのか。その答えは、土地と気候と、作り手の哲学にありました。
シラーとシラーズ——同じ品種、異なる個性
「シラー(Syrah)」と「シラーズ(Shiraz)」は、実は同じブドウ品種の異なる呼び名です。フランス・ローヌ地方をルーツとするこの品種は、ヨーロッパではシラー、オーストラリアではシラーズと呼ばれることが多いです。
しかし名前の違いだけでなく、味わいはまったく異なります。
| ニュージーランド シラー | オーストラリア シラーズ | |
|---|---|---|
| 果実感 | 黒系果実・プラム(繊細) | 濃厚なブラックベリー・カシス |
| タンニン | しなやかでシルキー | 力強くしっかり |
| 香り | 黒胡椒・スミレ・スパイス | チョコレート・バニラ・スモーク |
| スタイル | エレガント・洗練された | 濃厚・パワフル |
| 気候 | 冷涼(ホークスベイ) | 温暖(バロッサバレー等) |
オーストラリアのシラーズは、バロッサバレーのような温暖な産地で育つため、果実が完熟してアルコールが高く、濃厚でボリューム感のある味わいになります。一方、ニュージーランドのシラーは冷涼な気候の中でゆっくりと熟すため、果実味の凝縮感を保ちながら繊細さとエレガントさが際立ちます。
ニュージーランド シラーの個性
ニュージーランドのシラーには、他の産地では味わえない独自の個性があります。ニュージーランドワインの専門家はその特徴を「複雑味があってスパイス感があり、しなやかでエレガントなテクスチャー」と表現します。
具体的な香りのキーワードとして挙げられるのは:
- プラムや黒系果実——熟した果実の甘みと凝縮感
- 黒胡椒——ローヌのシラーに通じるスパイシーなアクセント
- スミレの花——繊細で上品なフローラルなニュアンス
- タバコ・革——熟成によって生まれる複雑さ
現在、国際的なワインメディアやソムリエのコミュニティから急速に注目を集めており、「NZシラーは次のビッグウェーブ」という声も多く聞かれます。

ホークスベイ——NZシラーの中心地
ニュージーランドのシラー産地として最も重要なのが、北島のホークスベイです。
ホークスベイはNZ最古のワイン産地のひとつで、温暖な気候と豊富な日照時間が特徴です。その中でも特別な区画がギムレット・グラヴェルズ——たった100年ちょっと前まで、ナルロロ川が流れていた場所で、今は砂利と小石が積み重なった独特の土壌が広がっています。
そのように、100年ちょっと前まで川だったところが、ブドウの畑になっている場所は、世界的に見てもここだけです。
砂利土壌は水はけが極めてよく、ブドウの根が深く地中に伸びます。日中の太陽熱を砂利が蓄え、夜間に放射することでブドウの熟成をゆっくりと促します。この環境から生まれるシラーは、凝縮感と緻密なタンニンを持ちながら、エレガントさを失わないバランスの良さが特徴です。
(出展:https://www.hawkesbaynz.com/visit/us/ngaruroro-river)
Cave de Uとトリニティ・ヒル——ギムレット・グラヴェルズを車で駆けた朝
私がトリニティ・ヒルを訪問したのは、11月の南半球の春でした。
ギムレット・ロードを走ると、道の両脇に砂利の畑が続きます。「この道と畑の土壌は基本的に同じです。私たちは砂利の中でブドウを育てている」——ワインメーカーのその言葉が、すべてを説明していました。
畑の案内では、同じ一枚の畑の中に、木の大きさがまるで異なる区画があることを教えてもらいました。川が流れていた名残で土壌が変わり、重い土のところにはシャルドネを、石が多く乾いたところにはシラーを植えた。土地を読んでブドウを選ぶという、確かな哲学がそこにありました。
樽室では、2024年と2025年のシラーを樽から試飲。「シラーはすでに香り豊かで美しい。新樽のオーク香を重ねすぎると、ワインが隠れてしまう」という言葉とともに、大型オーバル樽で穏やかに育てるトリニティ・ヒルのシラー哲学を体感しました。
なかでも30年の老木から生まれる「オマージュ・シラー」は、トリニティ・ヒルの頂点に立つワインです。1994年植えの古木が生む凝縮した果実は、NZシラーの可能性を世界に示す一本です。






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