砂利を踏みしめるタイヤの音が、静かな朝に響きました。ホークスベイに来るのを、ずっと楽しみにしていました。
ギムレット・ロードを走りながら、ふと窓の外を見ると、道の両脇に畑が広がっています。整然と並ぶブドウの木々、その足元に広がる灰色の石。
「この道と、畑の土壌は基本的に同じです。私たちは、砂利の中でブドウを育てている」——トリニティ・ヒルのワインメーカー、ウォーレン・ギブソン(Warren Gibson)氏は、そう静かに言いました。
ニュージーランドの北島、ホークスベイ。訪れたのは2025年の10月下旬。南半球では春のはじまりです。シュート・シニング(ブドウの木から生えてくる余分な芽や枝を除去する作業)の真っ最中でした。

土の違いを、木が教えてくれる
ウォーレンの車に乗り込み、最初に向かったのは「125」と呼ばれるブロックです。8ヘクタールの畑が広がるトリニティ・ヒル最初の自社畑で、シャルドネを中心に植えられています。

走りながら、ある不思議な光景が目に入りました。畑の境界あたりで、木の大きさが変わっているのです。「見えますか? あちらの木が大きくて、こちらが小さい」。ウォーレンが指差す先を見ると、確かに木の生育がまるで違います。
「これは、かつて川が流れていた名残です。大きな木の側には砂やシルトが積もって、土壌に水分と栄養がある。だからシャルドネに向いている。小さな木の側は非常に岩が多く、水もほとんど含まない。でも、だからこそシラーやカベルネ・フランに最適なんです」。
川の流路が変わったことで、同じ一枚の畑のなかに、まったく異なる土壌がモザイク状に存在しています。そのため、区画ごとにブドウの品種を変えて植えた——土壌に合わせてブドウを選んだ、という畑でした。「レシピはない。土が答えを持っている」。そのひと言が、印象に残りました。
1994年のシラーが眠る畑へ
次に向かったのは「ギムレット・エステート」と呼ばれる17ヘクタールの畑。こちらはシラーが中心です。
一角に、特別な区画がありました。ひとつながりの約1ヘクタール。「このシラーは1994年に植えられました。樹齢30年になります。通常、私たちのトップ・シラー『オマージュ』は、ここから生まれます」。
車の中から見る古木は、太い幹と曲がりくねった枝を持ち、どこか年老いた哲学者のような風格を漂わせていました。少量しか実をつけない老木だからこそ、一粒一粒に果実の力が凝縮されていく——そんな静けさがありました。
さらに3つ目の畑へ。丘の陰に守られた温かい区画で、南からの冷たい風を受けにくい、フロスト・フリーの立地です。「同じ品種でも、こちらは2週間早く熟します」。急斜面ではドローンを使った作業を3年前から導入したとのこと。「危険で大変な手作業でしたが、ドローンは本当に助かっています」と、ウォーレンは笑いました。

樽から直接注がれた、まだ眠っているワイン
畑巡りを終え、ワイナリーの醸造棟へ。ずらりと並ぶ樽に迎えられました。シャルドネ専用のセラーと、その奥に赤ワイン用のスペース。温度は11〜12℃。
まず、2025ヴィンテージのシャルドネを樽から試飲させていただきました。一つ一つ、樽に貼られているラベルをチェックします。どの区画で、どのブドウを、いつ収穫したか。しっかりと記載され、管理されています。
ワイナリーでは、プレスした果汁をほぼそのまま——澱を含んだ白濁した状態で——直接樽に入れて発酵させる手法を採っています。「クリーンな果汁よりも、この濁りが複雑さとミネラル感を与えてくれる」というのがウォーレンの哲学です。

グラスに注がれたワインは淡い黄色でした。完成品ではなく、まだ生きているような——なんというか、はつらつとしていて、ワインがまだ呼吸をしているように感じました。フリンティな火打石のような印象と、清澄な果実の甘さが同居していました。
2025年と2024年は「非常に良いヴィンテージ」だといいます。一方で、「2023年はホークスベイ全体が大変な年でした。あんなに悪いシーズンは、私の30年近いキャリアで最悪でした。赤ワインはほぼ商品化しなかったんです」とのこと。
だからこそ、2024年の出来には特別な思いがあるのでしょう。
マルサンヌとテンプラニーヨ——もうひとつのトリニティ・ヒル
瓶詰めされたワインの試飲へ移る前に、少し変わり種も紹介してもらいました。マルサンヌとルーサンヌのブレンドです。「ヴィオニエのように主張が強すぎず、テクスチャーがあって食事に合わせやすい。北ローヌの古典的なブレンドです」。さらっとしているのに口の中で広がる厚みがあり、想像よりずっと深みのあるワインでした。
テンプラニーヨも少量ながら生産しており、ニュージーランドでは数少ない産地のひとつとのこと。「一貫して毎年きちんと熟す、信頼できるブドウです」と、ウォーレンはおだやかに笑いました。
最後の一本と、玄関先の写真
帰り際、ボトルワインの試飲でハイライトが訪れました。ギムレット・グラヴェルズ・シャルドネ2024、125シャルドネ2024、そしてオマージュ・シラー2021。一本一本、その畑の話を思い浮かべながら飲む瓶詰めのワインは、午前中に見た風景と重なって、格別でした。
ワイナリーの玄関前で写真を撮り、握手を交わしてウォーレンと別れました。風は少し強く、前夜の雨でまだ地面が濡れていましたが、空は青く晴れ渡っていました。
砂利の大地を車で走り抜けたあの朝から、トリニティ・ヒルのワインは私の中で少し違う意味を持つようになりました。

Cave de Uとトリニティ・ヒル
Cave de Uでは、この訪問を経てトリニティ・ヒルのワインをお取り扱いしています。ワイナリーの哲学、あの砂利の土壌、そして30年の老木——そういった背景とともに、ぜひ手に取っていただけたらと思います。
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