一口飲んで、思わず目を閉じました。
グラスに注いだのは、ペガサス・ベイのリースリング。鮮やかな柑橘の香りが広がり、口に含むと、蜂蜜とライム、かすかにミネラルの余韻。「ニュージーランドにこんなリースリングがあったのか」——そう感じた瞬間でした。
ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワール、というイメージが強いですが、ペガサス・ベイはそのイメージを静かに、しかし力強く塗り替えてくれるワイナリーです。今回は、カンタベリー州ノース・カンタベリーのワイパラ・ヴァレーに根ざす「ペガサス・ベイ」を詳しくご紹介します。
ペガサス・ベイとは
ペガサス・ベイのはじまりは、1975年まで遡ります。神経科医のイヴァン・ドノヴァン氏が、趣味としてワイパラ・ヴァレーでブドウ栽培を始めたのがきっかけです。その情熱が本格的なワイン造りへと発展し、1985年にワイナリーとして正式に設立されました。
ワイナリーの名前は、近くのペガサス湾(Pegasus Bay)に由来しています。ギリシャ神話に登場する翼を持つ馬の名を冠したこのワイナリーは、設立当初から「世界に通用するワインを」という高い志を掲げていました。
品種ごとの生産比率
ペガサス・ベイの畑では、ピノ・ノワールが約3分の1、リースリングが約3分の1、残りの3分の1でシャルドネやメルロなどその他の品種を生産しています。リースリングの割合がこれほど高いワイナリーはニュージーランドでも珍しく、その希少性と品質の高さが世界のワイン愛好家に注目されています。
家族経営が守る品質
現在は、ドノヴァン家の次世代へとバトンが渡されています。息子のマット・ドノヴァンがワインメーカーを務め、その妻レイチェルがマーケティングを担当。まさに家族全員でワイナリーを守り続けています。
「ワイン造りは農業であり、芸術です」——マットはそう語ります。土地への敬意と、品質への妥協のなさ。その姿勢がペガサス・ベイの一貫した品質を支えています。
リースリングスタイルの独自性
ペガサス・ベイのリースリングには、他にはない特徴があります。発酵後に少量の二酸化炭素(CO2)を自然に残した状態で瓶詰めすること。これにより、ワインに独特の爽やかなきめ細かさと、フレッシュ感が生まれます。「スパークリングのような生き生きとした印象がある」と表現されることが多いのも、このスタイルゆえです。

ワイパラ・ヴァレーのテロワール
ワイパラ・ヴァレーは、ニュージーランド南島のカンタベリー州、クライストチャーチから北に約1時間のところに位置します。
ノース・カンタベリーとワイパラ・ヴァレー
ニュージーランドの東海岸は、全体的に雨が非常に少ない乾燥した土地として知られています。その中でも「ノース・カンタベリー」は、冷涼気候(クールクライメット)のなかで果実が凝縮するという特徴を持つエリアです。
このノース・カンタベリー内にあるサブリージョンが「ワイパラ・ヴァレー」。実は、ノース・カンタベリーで生産されるワインの実に95%が、このワイパラ・ヴァレー産です。地域全体を代表する産地と言っても過言ではありません。

気候と土壌の特徴
ワイパラ・ヴァレーの気候で特徴的なのが、北東から吹く強い風です。この風がブドウ畑に一定の涼しさをもたらし、果実のフレッシュさと酸味を保ちます。また、テヴィオテール・ヒルズが強風の緩衝材となり、生育期には十分な日照を確保します。
土壌は氷河期に形成された砂利質(グラヴェル)が主体で、水はけが非常に良好です。さらに地表にゴロゴロとした石が多く転がっており、この石が昼間の太陽熱を蓄え、夜間に放射することで、ブドウの周囲の温度を一定に保ちます。朝晩の冷え込みと、石からの穏やかな輻射熱——このバランスが、ペガサス・ベイのワインに与える果実の凝縮感と複雑さの源泉です。
ニュージーランドのワイン産地のなかでも、ワイパラ・ヴァレーは「冷涼でありながら果実が熟す、独自の環境」として、世界のワイン愛好家から高い注目を集めています。
ペガサス・ベイのワインラインナップ
リースリング——ペガサス・ベイの代名詞
ペガサス・ベイを語るなら、まずリースリングを外すことはできません。
ノース・カンタベリーのリースリングには、オレンジピールのような香りとスパイシーなニュアンスという地域特有の個性があります。ペガサス・ベイはその特性を最大限に活かすため、「とにかく限界まで熟させてから収穫する」という哲学を貫いています。

驚くほど遅い収穫時期
ペガサス・ベイのリースリングの収穫時期は、5月中旬〜7月中旬が中心です。通常のニュージーランドのブドウ収穫が3月末〜4月上旬に行われることを考えると、2〜3ヶ月も遅い。冬の寒い時期まで木にブドウをならせ続け、ときには貴腐菌がつくほど熟成させてから収穫します。この極端な遅摘みが、ペガサス・ベイのリースリングに類を見ない凝縮感と複雑さを与えているのです。
そして収穫後は、ステンレスタンクで酵母と合わせて醸造。発酵の過程で自然に発生するCO2をそのままボトリングすることで、ワインに生き生きとしたきめ細かさが生まれます。
リースリング 2024は、ライムの皮と蜂蜜のアロマが際立つ、エントリーラインながら完成度の高い一本。甘すぎず辛すぎず、食事を選ばない万能さが人気です。
ベル・カント ドライ・リースリング 2023は、その名のとおり完全辛口に仕上げた上位版。オレンジピールとスパイスのニュアンスをほのかに感じながら、凝縮感とピュアさが際立ちます。実は2011年ヴィンテージのベル・カントは、21人の審査員による権威あるコンペティション「ジャッジメント・オブ・ロンドン」で最高点を獲得しました。世界中の1本数万円クラスのワインを押さえての頂点——一夜にして「世界一」の仲間入りを果たした伝説的なワインです。
アリア レイト・ピックド・リースリング 2024は、収穫を遅らせ糖度を高めた甘口スタイル。デザートワインのような甘さながら、酸がしっかりしているため重くなりすぎません。
リースリング エイジド・リリース 2014は、10年以上の熟成を経てリリースされた逸品。蜂蜜とペトロール(石油のような独特の香り)が複雑に絡み合う、熟成リースリングの世界を体験できます。
アンコール 貴腐リースリング 375ml 2017は、貴腐菌(ボトリティス)による凝縮感が極まった極甘口。少量ずつゆっくりと楽しむ、特別な場面のためのワインです。

プリマドンナ ピノ・ノワール——フラッグシップの頂点
ペガサス・ベイのピノ・ノワールには、揺るぎない哲学があります。
現在は樹齢25〜40年の老木を使い、クローンごとに醸造方法を変えて仕込みます。18ヶ月の熟成を経た後、さらに2ヶ月かけてじっくりとブレンドを行い、最終的な一本が完成します。
味わいの決め手は、タンニン(渋み)の抽出方法にあります。種からタンニンを抽出すると、苦くきつい印象になりがちです。ペガサス・ベイは皮やヘタからのみタンニンを引き出すことで、あの「ソフトでシルキーな口当たり」を実現しています。生き生きとした酸と果実味が豊かで、しかも柔らかい——この独特のバランスが、ペガサス・ベイのピノ・ノワールの真骨頂です。
プリマドンナは、そのなかでも最高峰に位置するフラッグシップです。
「プリマドンナ」という名前には、実は意味があります。イタリア語で「気分屋の女優」を意味するこの言葉——「いつも機嫌を取り、丁寧に世話をしなくてはいけないほど繊細なブドウを使っている」という思いから名付けられました。最高のブドウには最高の手間をかけ、最良の樽で熟成させる。その結果生まれるのが、プリマドンナです。
プリマドンナ 2020は、現行ヴィンテージとして今まさに飲み頃に差し掛かっています。2030年頃まで楽しめる熟成ポテンシャルを持ちます。
エイジド・リリースという哲学
ペガサス・ベイの最大の特徴のひとつが、「エイジド・リリース」という考え方です。
多くのワイナリーがワインを若いうちにリリースするなか、ペガサス・ベイはワイナリーのセラーで数年間熟成させてから市場に出します。消費者が「熟成の手間」を省けるうえ、最良の飲み頃に近い状態でワインを手に入れられます。
ピノ・ノワール エイジド・リリース 2015(約10年熟成)は、まさにこの哲学を体現した一本。若いワインでは感じられない、複雑さと円熟した深みを楽しめます。
その他のラインナップ
- シャルドネ 2019:洗練されたバランス。柑橘とバニラの余韻が心地よい
- ヴィルトゥオーソ シャルドネ 2020:上位版シャルドネ。豊かなテクスチャーと長い余韻
- ソーヴィニヨン・ブラン 2024:ワイパラらしいハーブ感と引き締まった酸
- メルロ・カベルネ 2021:温暖なワイパラが育てた赤ワイン。柔らかな果実味
- マエストロ(メルロ・マルベック) 2020:上位赤ワイン。深みと複雑さを兼ね備えた一本
他産地との違い——ワイパラは「ブルゴーニュスタイル」
ニュージーランドのピノ・ノワールには、産地によって明確な個性の違いがあります。ペガサス・ベイを選ぶ理由を知るために、他産地との比較を整理しておきましょう。
セントラル・オタゴは、果実味が全面に出るスタイルが特徴です。チェリーやベリーのフルーティな印象が強く、飲みやすさで人気があります。
マールボロは、多様な土壌構成から、バラエティに富んだワインが生まれます。生産者によって個性が大きく異なるのが特徴です。
**カンタベリー(特にワイパラ)**は、「セイボリー(旨味系)」「アーシー(土っぽい)」「スパイシー」なスタイルが際立ちます。白胡椒のようなスパイス感、ほのかな青みのあるアロマ、そしてしっかりとした骨格と酸——この重なりは、フランス・ブルゴーニュのピノ・ノワールに近いと表現されることが多く、世界のソムリエからも「ブルゴーニュスタイル」と称されます。
果実味の豊かさで選ぶならセントラル・オタゴ、複雑さと骨格で選ぶならワイパラ——ペガサス・ベイは、まさに後者の特性を極めたワイナリーです。
おすすめヴィンテージ
ペガサス・ベイのワインは、ヴィンテージによって個性が変わります。
2024年のリースリングは、涼しい条件が果実の酸を際立たせた、フレッシュ感あふれるヴィンテージです。早めに楽しむのがおすすめ。
2022年のピノ・ノワールは、バランスに優れた飲みやすいヴィンテージ。今から2〜3年かけてゆっくり楽しむのが最高です。
2020年のプリマドンナとヴィルトゥオーソは、凝縮感に優れた素晴らしいヴィンテージ。熟成ポテンシャルが高く、2030年以降に向けてセラーに寝かせるのもおすすめです。
エイジド・リリース(2014・2015年)は、すでにピークに近い状態でリリースされているため、今すぐ楽しめます。熟成ワインの複雑さを体験したい方に最適です。
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Cave de Uで取り扱い中のペガサス・ベイ全ラインナップ。
— RIESLING —
— PINOT NOIR —
— CHARDONNAY / WHITE / RED —
















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