グラスに注いだ瞬間、紫を帯びた深いルビー色がきらりと光りました。
鼻を近づけると、ヴァイオレットの花びらを思わせるような香りが静かに漂ってきます。口に含んだ瞬間、滑らかでクリーミーなタンニンが舌の上を柔らかく包み込み、熟したダークチェリーやスパイスの余韻が、飲み終えた後も長く続く——。
「これは、ただのワインじゃない」。そう感じさせる一本でした。
今回ご紹介するのは、ニュージーランド・セントラルオタゴのワイナリー「ペレグリン」が生んだ、ピノ・ノワール 2021です。
隼の名を持つワイナリー——ペレグリンとは
「ペレグリン(Peregrine)」とは、ニュージーランドに生息する隼(はやぶさ)の名前です。ワイナリーの畑の上空を隼が舞う姿から名付けられ、スコットランド出身のグレッグ・ヘイ氏によって1998年に設立されました。創業ヴィンテージのソーヴィニヨン・ブランは早くから国際的な評価を得て、ペレグリンの名はニュージーランドワインの代名詞のひとつになっていきます。
ペレグリンが掲げるコンセプトは「Wine with Altitude and Attitude」——高地のワイン、そして気概を持ったワイン。標高400メートルのギブストン・バレーに構える美しいワイナリー棟(2003年完成)は、カワラウ川を見下ろす断崖テラスの上に位置しています。
「隼は力と繊細さを兼ね備えた鳥です。それがペレグリンのワインの本質でもある」——そうワイナリーは表現します。力強さの中に品格がある、という哲学が、このワインには宿っています。
現在のワインメーカーは、ナディン・クロス氏。フランスやカリフォルニア、マールボロで経験を積んだ後、2010年にペレグリンに加わった実力者です。「有機農法は手段ではなく、ワインの質を高めるための選択」と語る彼女のもと、ペレグリンは2017年ヴィンテージよりニュージーランド認定のオーガニックワインを生産しています。化学肥料や農薬に頼らず、土そのものの力でブドウを育てる——その誠実な姿勢が、ワインの純粋さに表れています。

なぜセントラルオタゴのピノ・ノワールは世界を驚かせるのか
セントラルオタゴは南島の内陸に位置し、世界最南端のワイン産地のひとつです。標高が高く、大陸性気候——昼は太陽がさんさんと降り注ぎ、夜は急激に冷え込む。この20℃を超える寒暖差が、ブドウに果実の凝縮感と引き締まった酸を同時に与えます。
ペレグリンの畑は主に3つのエリアにまたがっています。
- ギブストン(標高約400m):最も冷涼で高地。長い熟成期間が、繊細なタンニンと生き生きとした酸を生む
- ベンディゴ(標高約350m):最も温暖で乾燥したエリア。果実の力強さが特徴
- ピサ:軽い石の多い土壌が広がる、個性的なテロワール
特にギブストンのカワラウ川沿いテラスは、片岩(シスト)と沖積ローム土壌が混在しています。岩の多い地層は根を深く張らせ、ミネラル感と精密さをワインに与えます。「土の個性がそのままワインに出る」——それがセントラルオタゴの魅力です。
2021年ヴィンテージ——ゆっくり熟した果実が生む深み
2021年のセントラルオタゴは、春から夏にかけての涼しい気候が印象的なヴィンテージでした。ラニーニャの影響で気温が低く推移したため、ブドウの成熟はゆっくりと進みました。
結果、果汁が凝縮した小粒のブドウが収穫されました。ゆっくりと時間をかけて熟したからこそ、果実の凝縮感としっかりとした骨格が備わっています。
世界的なワイン評論家キャメロン・ダグラス氏は、このワインに96点を付け、「焼いたチェリー、ボイズンベリー、プラム——セントラルオタゴの荒々しい大地とワイルドタイムを想起させる複雑さ」と評しています。また、ニュージーランドの食専門誌「Cuisine」の審査でも4つ星を獲得。飲み頃は2026年〜2036年頃と見られており、今後の熟成でさらに深みを増していくポテンシャルを秘めています。
テイスティングノート——シルクのようなタンニンと長い余韻
色:深みのある紫がかったルビー色。若さと凝縮感を感じさせます。
香り:ヴァイオレットや赤い花を思わせる華やかな香りから始まり、ダークチェリー、ボイズンベリー、スパイス。背後には大地を感じさせるハーブのニュアンスが静かに漂います。
味わい:口に含むと、まず滑らかでクリーミーな口当たりが印象的です。タンニン(渋み)はしっかりありながらも角がなく、まるでシルクのよう。熟した果実の力強さの中に、上品なスパイスと長い余韻が広がります。飲み終えてからも、その余韻が口の中に続きます。
まとめると:力強さと繊細さが共存した、品格のある一本。ピノ・ノワールらしい複雑さと、セントラルオタゴらしい引き締まった骨格を持っています。
合わせてみたい料理
ペレグリンのピノ・ノワールは、繊細で品格のある味わいのため、素材の質を活かした料理と特に好相性です。
- 鴨のロースト——ピノ・ノワールの果実感が鴨の旨味を引き立て、互いの深みを高め合います
- きのこのリゾット——土っぽいニュアンスとワインの大地感が自然と調和します
- 和牛のすき焼き——甘辛いたれとダークフルーツの果実味が驚くほど相性抜群
- ぶり大根、豚の角煮——醤油ベースの煮物と、スパイス感のあるピノ・ノワールはよく合います
- 熟成チーズ——渋みがチーズの脂肪分をすっきりと受け止めてくれます







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