強風の春、マーティンボローでアタ・ランギに出会った日

マーティンボローに向かう車の中で、風の音が低くうなっていました。

ニュージーランドの首都ウェリントンでは時速120キロ(!)近い強風が吹いたと報道されており、その余波がマーティンボローにも押し寄せていた日でした。冬から春に切り替わるこの時期、南半球の春は、空気ごとひっくり返すような風とともにやってくる——そう実感した朝です。

そんな猛烈な風の中、たどり着いたのがアタ・ランギでした。


目次

初めて降り立った、ワイナリーの佇まい

正直に言うと、テイスティングルームに足を踏み入れた瞬間、思わず「すごい」と声が出ました。

モダンでありながら、どこか静謐な空気が漂うテイスティングルーム。建物の随所にマオリの文様や装飾が取り入れられており、ニュージーランドならではの文化と、ワインの世界が自然に溶け合っていました。この建物は約3年前に竣工したもので、2023年のニュージーランド建築賞において最優秀ホスピタリティ施設を受賞しています。ただ新しいだけでなく、この場所に積み重なってきた歴史の重みをきちんと受け止めた建物でした。

窓の外には、アタ・ランギが最初に植えたヴィンヤードが広がっています。この景色を眺めながらワインを飲む——それがここのコンセプトでもあるのだと、案内してくれたスタッフが教えてくれました。


1970年代のクローンが、今もここで生きている

テイスティングが始まる前、1枚の古いファミリー写真が目に入りました。アタ・ランギを創設したクライヴ・ペイトンは、1970年代にマーティンボローのブドウ栽培の可能性を信じてこの地に挑んだ開拓者です。

ピノ・ノワールに使われているエイベル・クローンは、70年代にNZの国境を「船の中でこっそり」通過したものだと笑いながら説明してくれました。

実は、あるニュージーランドの旅⾏者がロマネ・コンティの畑に忍び込み、違法に持ち帰ったブドウの穂木がありました。それを入国時に没収し、検疫所で検査した後、検査官が自園の畑に植えたものがエイベル・クローンの始まり。

それを繁殖させ、検査官の友人だったクライヴに3,000本の挿し木を贈りました。今日、畑の第13列以降に並ぶエイベル・クローンは、そこから始まっています。

(今の時代では考えられない話ですね笑)

現在、クライヴは70代半ばで引退し、彼の妹アレイがCEOを、長女ヴァネッサがセラードアを管理するなど、家族経営はしっかりと引き継がれています。そして21ヴィンテージにわたりアタ・ランギのワインを造り続けてきたチーフワインメーカーのヘレンが、ワインのすべてに署名を記しています。

列のブドウ畑が生んだ、アタ・ランギ初のシュナン・ブラン

テイスティングの1杯目に差し出されたのは、シュナン・ブラン 2024でした。

「これが私たちにとって初めてのシュナン・ブランです」——そのひと言が、グラスへの期待を一気に高めました。

アタ・ランギは1980年代からワインを造り続けてきましたが、シュナン・ブランのリリースはこれが初めて。栽培しているのはわずか9列——4列は自社畑に、残る5列はオーガニック農家から購入したものです。

アタ・ランギが徹底するのは、有機農法と最小限の介入です。すべての剪定は機械を使わず3ヶ月かけて手作業で行われ、収穫も手摘み。すべての醗酵に野生酵母だけを使用し、プレミアムな赤ワインは清澄も濾過も行いません。

シュナン・ブランは病害に弱く、有機栽培の環境では特に難しいブドウです。しかし2024年は、北島をサイクロンが直撃した2023年の苦しい記憶を吹き飛ばすほどの、乾燥した素晴らしいヴィンテージでした。その好条件が重なり、初めてシュナン・ブランを瓶に詰めることができた。

9列から生まれたワインはわずか2,500本。リリース後4週間で半分以上が売れたという事実が、その人気を物語っています。

グラスに鼻を近づけると、赤りんごのような果実の甘みと、ミネラルのひんやりとした余韻、かすかな花の香り。まだ試行錯誤の段階とのことですが、これからアタ・ランギのもう一つの顔になっていくのではないか——そんな確信めいた印象を受けました。


ワインメーカーの自家畑から生まれる、マスターズ・シャルドネ

続いて登場したのが、マスターズ・シャルドネでした。

マスターズとは、ワインメーカーのヘレンが暮らす「マスターズ・ヴィンヤード(13番ヴィンヤード)」のこと。町から4キロほど離れたレイク・フェリー・ロード沿いにある、ヘレン自身のヴィンヤードです。栽培しているのはわずか10列のシャルドネ——グラヴェルが多いマーティンボローの土壌とは異なり、ここはクレイ(粘土質)が多いサイトです。

この土壌の違いが、ワインに独特のフローラルな集中感をもたらします。24%の新樽フレンチオークで熟成され、フルマロラクティック発酵を経てクリーミーさが加わります。シトラスとミネラル、そして洗練されたフローラルの香り——グラスを空にした後も、香りが残ります。

「空になったグラスの香りをずっと嗅いでいたいシャルドネです」と案内役がおだやかに笑いました。初ヴィンテージが2020年で、まだ3度しか造られていない希少なワインです。


クリムゾンから旗艦まで——アタ・ランギのピノ・ノワール

アタ・ランギといえば、やはりピノ・ノワールです。

まず試したのがクリムゾン 2024。若木(樹齢20〜25年)のブドウを使い、新樽は一切使わず2〜3年の古樽で11ヶ月熟成させた、毎日の食卓に寄り添うピノ・ノワールです。2024年という優れたヴィンテージの恩恵を受け、例年より豊かでベルベットのような質感に仕上がっています。バッキングスパイス(シナモンやクローブ)の香りとともに、とてもジューシーで飲みやすい。

$35ドル(USD)でこの品質は存在しない——同席したアメリカ人のバイヤーがそうつぶやいたのが印象的でした。

アタ・ランギ クリムゾン ピノ・ノワール 2023

クリムゾン ピノ・ノワール 2023(5,720円)
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続いてフラッグシップ ピノ・ノワール 2022。アタ・ランギを世界に知らしめた、最も代表的な1本です。樹齢35〜45年の老木が実るベストパーセルのブドウを6つのヴィンヤードからブレンド。エイベル・クローンを約40%に、ディジョンクローンやクローン5を組み合わせ、19ヶ月という時間をかけて完成させます。よく熟した赤果実の香りと、エレガントで複雑な構造。10年以上の長期熟成にも耐えうる骨格を持っています。

アタ・ランギ ピノ・ノワール 2021

ピノ・ノワール2021(13,750円)
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そして、マクローン シングルヴィンヤード 2019。砂利質の土壌の中に、1本のクレイの細い筋が走るという独特の区画から生まれるワインです。7種ものピノ・ノワールのクローンをブレンドし、グラファイト(黒鉛)のようなフリンティな余韻が際立ちます。まだ熟成の途中、という印象でしたが、その複雑さはすでに別格でした。


ジュリエット・シラー——特別な年にだけ生まれる、ひとつの名前

最後の1杯は、ジュリエット・シラー 2024でした。

ジュリエットとは、アタ・ランギと縁の深かった、今は亡き家族の友人の名前です。ヘレンはこのワインを、十分に熟成できた例外的なヴィンテージにしか造りません。前回のリリースは2019年——5年ぶりの登場です。

カーフー・ヴィンヤード(3番ヴィンヤード)から生まれるシングルヴィンヤード・シラー。クールクライメートのシラーらしく、ピンクペッパーコーンとスミレの花の香りが印象的です。色は豊かで、口当たりはジューシー。中間の余韻には重みがあり、バロッサやヨーロッパのシラーとはまったく異なる——マーティンボローという土地が刻まれた、繊細できめ細やかなタンニンの味わいでした。

「ジュリエットがここにある時は、何か特別な年があったということです」と、案内役がそっと言いました。

このシュナン・ブランとジュリエット・シラーは、いずれも現時点では日本未入荷です。これらのワインが日本に届く日を、Cave de Uも楽しみに待っています。


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マーティンボローを代表するワイナリーのラインナップをぜひ。

— PINOT NOIR —

ATA RANGI

アタ・ランギ クリムゾン ピノ・ノワール 2023

クリムゾン ピノ・ノワール

2023

¥5,720

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ATA RANGI

アタ・ランギ ピノ・ノワール 2021

ピノ・ノワール

2021

¥13,750

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ATA RANGI

アタ・ランギ コティンガ ピノ・ノワール 2020

コティンガ ピノ・ノワール

2020

¥16,500

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ATA RANGI

アタ・ランギ マクローン ピノ・ノワール 2018

マクローン ピノ・ノワール

2018

¥16,500

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ATA RANGI

アタ・ランギ マスターズ ピノ・ノワール 2020

マスターズ ピノ・ノワール

2020

¥16,500

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— WHITE / ROSÉ / BLEND —

ATA RANGI

アタ・ランギ ポティキ シャルドネ 2023

ポティキ シャルドネ

2023

¥6,160

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ATA RANGI

アタ・ランギ テ・ワ ソーヴィニヨン・ブラン 2024

テ・ワ ソーヴィニヨン・ブラン

2024

¥5,115

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ATA RANGI

アタ・ランギ ピノ・グリ 2024

ピノ・グリ

2024

¥5,500

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ATA RANGI

アタ・ランギ セレブレ 2022

セレブレ

2022

¥6,600

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ATA RANGI

アタ・ランギ ロゼ 2023

ロゼ

2023

¥3,520

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