車のドアを開けると、あの乾いた風が迎えてくれました。
2025年10月。前回訪れた冬とはまるで違う風景が広がっていました。ブドウの木には緑の葉が繁り、畑全体がいきいきとした空気をまとっています。南半球の春——ちょうど発酵シーズンの始まりです。一緒に来てくれたお客様たちも、車を降りた瞬間から、その景色に言葉を失っていました。
この日、私たちを迎えてくれたのはアシスタントワインメーカーのブライアン・クラッセンです。チーフワインメーカーのブレアは不在でしたが、ブライアンはそれ以上に丁寧に、フェルトンロードのすべてを案内してくれました。
ブロックを、一つひとつ歩く
案内はまず畑から始まりました。
「ここがブロック2です」とブライアンは言いながら、一列のシャルドネの木の前に立ちました。「フェルトンロードの中でも特別な区画です。土壌の石の大きさ、密度、水はけのよさ——すべてがシャルドネのために揃っている場所なんです」。
春の日差しの中、青い空、そして少し強めに吹くけれども心地の良い風が私たちを出迎えてくれました。お客様たちは静かに耳を傾けながら、畑を眺めていました。

「ここがブロック6」「こちらにピノノワールが植えられています」「この区画は標高が少し高いので、熟すのが2週間ほど遅くなります」——ブライアンの説明は、ひとつひとつ丁寧でした。ただ情報を伝えるのではなく、それぞれのブロックへの愛着が言葉ににじんでいました。「同じ畑でも、ブロックが変われば別のワインになる。そこが面白いんです」。
バノックバーンの台地から見える景色は、どこまでも広がっていました。お客様のひとりが「こんな場所でできるワインなんですね」とつぶやきました。
醸造棟の中へ
畑の案内を終え、一行は醸造棟へ移動しました。
整然と並ぶステンレスタンク、木の梁が走る天井、そして奥に続く樽の列。ブライアンはタンクの前に立ち、説明を始めました。「収穫したピノノワールは、除梗して粉砕したあと、このタンクに入れます。発酵はすべてここで行います」。手順を追いながら話す声は落ち着いていて、まるで何度も繰り返してきた仕事への誇りが感じられました。

「フェルトンロードでは、基本的に人工酵母を使いません。ブドウ自身が持つ天然の酵母で発酵させます。時間はかかりますが、それがワインの複雑さにつながる」。
添加物を極力使わず、介入を最小限にする——この哲学は、畑でのバイオダイナミック農法と同じ考え方でした。土から始まり、醸造までを一本の線でつなぐ、フェルトンロードのぶれない姿勢を感じました。

タンクの中から聞こえた音
続いて熟成中の樽がたくさん並べられた倉庫に案内され、ブライアンが一つの樽の前で立ち止まりました。
「せっかくですから、ぜひ聞いてみてください」と言いながら、樽の蓋を少し開けました。「耳を近づけてみてください」。
一人ずつ、タンクに顔を寄せていきます。私もそっと耳を近づけると——プチプチ、プチプチという小さな音が聞こえてきました。空気がはじけるような、泡が生まれるような、不思議な音です。「シャルドネが発酵しています」とブライアンは静かに言いました。
その音を聞いた瞬間、ここに液体として眠っているのが「ワイン」ではなく、まだ「命」なのだということを感じました。お客様たちもワインが生きていることを感じられて、終始感動しているようでした。

テイスティングルームで、涙が流れた
最後に、テイスティングルームへ移動しました。
木のカウンターにグラスといくつかのワインボトルが並べられています。リースリングから始まり、シャルドネ、ピノノワール、そしてブロック別のワインへ。一本飲むごとに、参加者の表情が少しずつ変わっていくのがわかりました。

そしてブロック2のシャルドネが注がれたとき——一人の参加者が静かに涙をぬぐいました。
グラスをそっとカウンターに置き、しばらく黙ってから、「こんなワインを飲んだのは初めてです」と言いました。「美しすぎて、なんか泣けてきてしまって」。
ブライアンはその言葉を聞いて、驚いたように目を丸くしました。そして少しの間があって、「ありがとう」と短く答えました。その「ありがとう」には、何年もこのワインを作り続けてきた人間の感情が詰まっているように聞こえました。
バックヴィンテージと、熟成の可能性
テイスティングを終えたあと、ブライアンは倉庫の一角に案内してくれました。
壁に沿って、丁寧に積み上げられたボトルの列。「創業1997年から、毎ヴィンテージを保管しています」とブライアンは言いました。「熟成させたワインがどんなふうに変わるかを、私たちも知りたいんです」。
フェルトンロードのワインは、熟成ポテンシャルが非常に高いことで知られています。ブライアンの言葉を聞きながら、私は日本でいくつかのバックヴィンテージを飲んだときのことを思い出しました。5年、10年を経たフェルトンロードのピノノワールは、開いた花のようにまったく違う表情を持っていました。
「日本にもバックヴィンテージが保管されています」とブライアンは続けました。「ヴィレッジセラーズさんのところに。もし機会があればぜひ試してみてください」。
現行ヴィンテージをセラーで寝かせるも良し、バックヴィンテージで熟成の世界を覗いてみるも良し。フェルトンロードのワインには、まだまだ先がある——そんな奥行きを感じた一日でした。

忘れられない、あの日
帰りの車の中は、皆さんの表情が明るくはじけていました。
誰かが「また来たい」と言いました。みんながうなずきました。フェルトンロードが何であるか——それはワインの説明よりも、あの一日が全部語ってくれたと思います。
フェルトンロードのワインを購入する
ブロック別の個性をぜひ飲み比べてみてください。
FELTON ROAD
ブロック3 ピノノワール
準備中
FELTON ROAD
ブロック5 ピノノワール
準備中











コメント
コメント一覧 (1件)
[…] セントラルオタゴでは、フェルトンロードのワインメーカー・ブレア・ウォルターと冬の休眠期の畑を歩き、まだ日本に届いていないニューヴィンテージを試飲させていただきました。ブロック2のシャルドネを飲んで涙した参加者がいた2025年のリトリートの記録は、訪問記でお読みいただけます。 […]