冬のバノックバーンで、フェルトンロードのワインメーカーであるブレアが、ブドウの木の根元の土を少し掘り起こして見せてくれました。表面はさらさらとした砂。でも少し掘ると、石が増えてきます。
「この石が大事なんです。日中に熱を蓄えて、夜に放出する。そのおかげでブドウはゆっくりと、均一に熟していきます」
同じ畑の中でも、区画が変われば石の大きさも土の色も違う。「だから私たちはブロック別にワインを作るんです。混ぜてしまうともったいない」——そう笑ったブレアの言葉に、ピノ・ノワールというブドウのすべてが詰まっているように感じました。
この記事では、ニュージーランドのピノ・ノワールについて、どんなブドウなのか、どこで育っているのか、産地でどう味が変わるのかを、Cave de U がこれまでに訪ねた造り手の言葉とともにご紹介します。
ピノ・ノワールとはどんなブドウか
ピノ・ノワールは、フランス・ブルゴーニュの赤ワインを支えてきた黒ブドウです。
色は淡めで、透き通るようなルビー色。渋みはおだやかで、さくらんぼやいちごのような赤い果実の香りが持ち味です。そして何より、育った畑や造り手の考えが、香りと味にそのまま表れるブドウでもあります。冒頭のブレアが「区画ごとに分けて造る」と言ったのは、そのためです。

その一方で、とても手のかかるブドウでもあります。ノース・カンタベリーのペガサス・ベイは、看板のピノ・ノワールに「プリマドンナ(気分屋の女優)」という名前を付けています。
「このブドウは本当に繊細で、常に機嫌を取り、丁寧に世話をしなければなりません。だからこそ、最高品質のブドウが生まれる」
気難しいけれど、手をかけた分だけ応えてくれる。造り手たちが口をそろえて語る、このブドウの魅力です。
ニュージーランドでいちばん多く植えられている赤ワイン用のブドウ
ニュージーランドのブドウ畑は、全体で約44,200ヘクタール。そのうちピノ・ノワールは約5,170ヘクタールで、ソーヴィニヨン・ブランに次いで2番目に広く植えられています(2025年)。赤ワイン用のブドウに限ると、その約75%がピノ・ノワールです。
ニュージーランドの赤ワインといえばピノ・ノワール、と言ってよいほどの存在です。
主な産地と畑の広さは、次のとおりです。
| 産地 | ピノ・ノワールの畑 | ひとこと |
|---|---|---|
| マールボロ | 約2,190ヘクタール | いちばん広い。白ワインの産地として有名 |
| セントラル・オタゴ | 約1,690ヘクタール | 産地の畑の約8割がピノ・ノワール |
| ワイララパ(マーティンボロー) | 約500ヘクタール | 小さな産地から、世界的な造り手が生まれている |
| ノース・カンタベリー | 約400ヘクタール | 中心はワイパラ・ヴァレー |
| ネルソン | 約140ヘクタール | 小さな産地。シャルドネでも知られる |
いちばん広いのは、ソーヴィニヨン・ブランで知られるマールボロ。一方、セントラル・オタゴでは畑の約8割がピノ・ノワールで、この品種にかける思いの強さがよくわかります。

産地で変わる、5つの顔
同じピノ・ノワールでも、産地が変わると、果実の厚みや香りの出方がはっきりと変わります。ペガサス・ベイのセミナーでは、産地ごとの違いを、セントラル・オタゴは果実が前に出るジューシーなスタイル、マールボロは土の多様さから個性豊かなワインが生まれる産地、ワイパラは旨みと、土やスパイスを思わせる香りが持ち味、と教えてもらいました。
ここからは、産地ごとに、出会った造り手の言葉とともにご紹介します。
セントラル・オタゴ——寒い夜が守る、明るい果実
南島の内陸、山に囲まれた盆地にある産地です。雨が少なく、昼は日差しが強く、夜はぐっと冷え込みます。
この「冷える夜」が大切だと話してくれたのが、ボールド・ヒルズの栽培責任者、ゲイリー・クラブでした。
「夜に温度が下がることが大切なんです。夜が暖かいと、酸が”蒸発”してしまう。ブドウのフレッシュさと明るい果実味は、涼しい夜があってこそ生まれます」
ゲイリーによると、セントラル・オタゴは、世界の主要なピノ・ノワール産地の中で、ここ30年の気温の変化が最も小さい産地のひとつだそうです。詳しくは気候変動は、ピノ・ノワールをどう変えるのかでご紹介しています。

産地について詳しく:セントラルオタゴのピノ・ノワールが、世界中のワイン好きを虜にする理由
訪問記:冬のセントラルオタゴで、ブレアが教えてくれたこと——フェルトンロード、最初の訪問
マーティンボロー(ワイララパ)——小さな町から始まった物語
北島の南端、ウェリントンから車で1時間ほどの小さな町です。乾いた気候と強い風の中で、繊細で奥行きのあるピノ・ノワールが生まれます。
この地のピノ・ノワールを語るうえで欠かせないのが、「エイベル・クローン」と呼ばれる株です。クローンとは、同じピノ・ノワールの中の「系統」のようなもの。アタ・ランギを訪ねたとき、その始まりを笑いながら教えてもらいました。1970年代に、この株はニュージーランドに「こっそり」持ち込まれ、それを増やしたアマチュアのワインメーカーが、友人だった創設者のクライヴ・ペイトンに3,000本の挿し木を贈った——今日のアタ・ランギの畑には、そこから始まった木が並んでいます。

一方、新しいワイナリーのオラテラでは、ワインメーカーのウィルコがエイベル以外の株も積極的に植え、「この区画ではこのクローンを、あの区画では別のクローンを」と、それぞれの個性を見ながら育てていました。同じ産地の中でも、次の世代の挑戦が始まっています。
産地について詳しく:マーティンボローのピノ・ノワールとは?
訪問記:強風の春、マーティンボローでアタ・ランギに出会った日
ノース・カンタベリー(ワイパラ・ヴァレー)——ブルゴーニュに近いと言われる理由
南島の東側、クライストチャーチの北にある産地です。
「ワイパラのピノ・ノワールは、よくブルゴーニュスタイルと言われます」——ペガサス・ベイのセミナーで聞いたこの言葉どおり、果実の甘さで飲ませるというより、白胡椒のようなスパイスや、しっかりとした骨組みで楽しませてくれるスタイルです。
セミナーの記録:ペガサス・ベイのセミナーで知った「世界一のリースリング」
マールボロ——ソーヴィニヨン・ブランの産地の、もうひとつの顔
ニュージーランドでいちばん大きなワイン産地で、ピノ・ノワールの畑もいちばん広い産地です。ソーヴィニヨン・ブランの印象が強いのですが、場所によって土がまったく違うため、ピノ・ノワールも造り手ごとに個性が分かれます。手に取りやすい価格の1本が多いのも、マールボロのうれしいところです。
産地について詳しく:マールボロとは?
ネルソン——「静かな卓越性」
南島の北の端、マールボロの西にある産地です。シャルドネで知られるノイドルフのセールス&マーケティング・ディレクターのロージーは、自分たちのピノ・ノワールについてこう語っています。
「誰かがうちのピノ・ノワールを『静かな卓越性(quietly excellent)』と表現したんですが、それはとても素敵な言い方だと思います」
涼しい気候から、旨みや森の香り、スパイスを感じる、落ち着いたピノ・ノワールが生まれます。
造り手について詳しく:ノイドルフとは?
選び方と楽しみ方
産地で選ぶ
迷ったときは、まず産地で選んでみてください。
| こんなときに | おすすめの産地 | 合う料理の例 |
|---|---|---|
| 果実の香りをたっぷり楽しみたい | セントラル・オタゴ | 鴨やラムのロースト、すき焼き |
| 香りをゆっくり味わいたい | マーティンボロー | きのこ料理、鶏のロースト |
| 少し落ち着いた、食事向きの1本を | ノース・カンタベリー、ネルソン | 豚肉の料理、焼き鳥(たれ) |
| まずは気軽に試したい | マールボロ | ハンバーグ、まぐろの赤身 |
料理との合わせ方はニュージーランドのピノ・ノワールに合う料理でくわしくご紹介しています。
年(ヴィンテージ)の違いを楽しむ
ゲイリーのセミナーでは、暑い年と涼しい年のピノ・ノワールを、銘柄を隠して飲み比べました。暑い年は果実が大きく、アルコールも高め。涼しい年は酸がしっかりしていて、長く寝かせる楽しみがあります。「人によって好みは違うし、両方を楽しめる人がいる——それが私にとっては嬉しいことです」とゲイリー。
正解はひとつではありません。何本かを飲み比べてみると、ピノ・ノワールのおもしろさがぐっと身近になります。寝かせたピノ・ノワールの楽しみ方は、バックヴィンテージのすすめもあわせてどうぞ。
キュレーターから
ニュージーランドのピノ・ノワールは、唯一無二のワインであり、まだまだ大きな可能性を秘めたワインだと感じています。
世界中のワイン産地が気候変動の波にさらされるなか、セントラル・オタゴは幸運にも、その影響をほかの産地ほど強く受けていません。冷涼な気候と大きな寒暖差、そしてすばらしい土壌。そこで育つピノ・ノワールは、これからますます世界中で愛されていくはずです。
この記事をきっかけに、ひとりでも多くの方にニュージーランドのピノ・ノワールを知っていただき、その美味しさを味わっていただけたら嬉しいです。ピノ・ノワールがお好きな方は、ぜひ一度、ニュージーランドのワインを手に取ってみてください。
——Cave de U キュレーター 我妻 悠

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訪問やセミナーで出会った造り手のピノ・ノワールを、産地ごとに1本ずつ選びました。
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産地ごとの違いを、ぜひ飲み比べてみてください。
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畑の広さは New Zealand Winegrowers「Vineyard Report 2026」(2025年の植付面積)、赤ワイン用品種に占める割合は同「A Snapshot 2026」によります。






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